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東京地方裁判所 昭和33年(特わ)741号 判決

被告人 高和沢、金才正こと金才玉

大一一・一一・一五生 乾物商

主文

被告人を懲役六月に処する。

理由

(罪となる事実)

被告人は、氏名は金才玉、生年月日は千九百二十二年十一月十五日、本籍地は韓国済州道北郡翰林面で千九百五十年五月頃日本国内に入国した韓国人であるが、まだ外国人登録法所定の登録を受けていないのに、昭和三十一年十月十七日東京都荒川区役所において、所在不明の高和沢の外国人登録証明を利用し、同人になりすまして、その原票記載の氏名高和沢、生年月日千九百二十三年五月十日、国籍の属する国における住所又は居所済州道済州邑二徒里、上陸許可年月日千九百二十七年十月十日なる旨の記載が事実に合つていることの登録事項確認申請書を、自己の写真と共に、同区役所係員に提出し、以て虚偽の申請をしたものである。

(証拠の標目)〈省略〉

(法令の適用)

被告人の判示所為は外国人登録法第十一条第一項に定める確認申請に関し虚偽の申請をしたもので、同法第十八条第一項第二号に該当するから、所定刑中懲役刑を選択し、被告人がさきに外国人登録法違反の罪により言渡された懲役三月の確定判決について、刑の時効完成によりその刑の執行を免れたことその他諸般の事情を参酌し、所定の刑期範囲内で主文の通り量刑処断する。

(弁護人の法律上の意見について)

弁護人は、外国人登録法第十一条は外国人登録原票の存在を前提とし、これが確認の申請をした場合にその適用があるものであるが、本件において被告人は従前外国人登録を受けていないので登録原票が存在しないのであるから、同法第十一条の適用を受ける筋合でないと主張する。そして同条が、本来、既に外国人登録を受けてその原票の存在することを前提とすることは勿論であり、被告人がこれまで外国人登録法第四条所定の登録を受けていないことは前掲各証拠上疑ないところではあるが、同法第十八条第一項第二号は、同法第十一条第一項の規定による申請に関し虚偽の申請をした者を処罰することを規定しているものであつて、右申請における虚偽の種類内容及び態容については何等の区別も制限もしていないのであるから、登録原票がないのに、その原票がある他人になりすまして確認申請をすることもまた右第十八条第一項第二号の虚偽申請にあたることは明らかであつて、被告人の判示所為は正にこの場合に該当し、弁護人の前記主張は理由がない。

(訴因と異なる事実の認定)

本件公訴における訴因の要旨は、東京都荒川区役所に外国人登録法第十一条第一項による確認申請をなす際、被告人の登録原票には、氏名高和沢、生年月日千九百二十三年五月十日等虚偽の記載がしてあるのを知りながら、右原票の記載が事実に合致する旨の登録事項確認の申請書を係員に提出して虚偽申請をしたというのであり、前記認定の事実と多少の相違があるが、右訴因は畢竟、被告人の登録原票には高和沢等真実と異なる記載があることを知りながら、これらが真実と合致する旨虚偽の確認申請をしたというのであつて、高和沢の登録原票は、これを本件の場合被告人の登録原票と見る誤解に坐するに対し、判示は被告人には登録原票がないので、高知沢の登録を利用し、同人になりすまして、高和沢の氏名、生年月日等そのままを確認申請書に記載して虚偽の申請をしたというのであつて、結局は被告人が自己のために真実に反して高和沢の名で確認申請をしたとする事は全く同一であり、被告人並びに弁護人の陳述もまたこの範囲を出るものではないのであるから、本件訴因と前記認定とのこの程度の差異は、特に訴因変更の手続を執らなくとも許されるものと考える。

よつて以上の通り判決する。

(裁判官 緑川享)

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